花見

「昼から酒を飲みてえ」と先輩がひとりごちていた。デキる後輩たる僕は何としても先輩の期待に応えるべきであると察し、花見の余りの赤霧島を携えて先輩を迎えるべく大学近くの公園へと向かったのである。

 

桜の花が散り始めており大変風流な雰囲気を醸している中、僕は読み進めている途中の『論理哲学論考』を開く。栞がわりにしているのはユーゴの紙幣。最悪か。

 

しばらくすると先輩がやって来た。

「何読んでるの」

ウィトゲンシュタインです」

「ダメだよ、死んじゃうよ」

なんとも解像度の低い忠告だ。

「逆に死んじゃわない本って何がありますか」

「……絵本しか思いつかねえ」

「絵本だって死に至るものは多いですよ」

などと雑な言葉を交わし赤霧島を飲む。思い思いに発泡酒を開け、しばらく春の風に吹かれ輪郭を曖昧にしていた。

そのまま曖昧になっていると、先輩が本を開いているのに気づく。

「何読んでるんですか」

罪と罰

懐かしい。僕も高校時代は授業をサボってのどかな公園でドストエフスキーを読むやつをやっていた。

「今更だけど読んでみるか〜ってね」

「公園で読むのがたまらなく良いですね」

などと言葉を交わし、なあなあで解散した。

花見酒は良いものです。